So What ? / リコしゃんの思い出

「どちらにお住まいですか」「オウジのほうです」「一人暮らしですか」「弟と同居です」「ご実家はどちらで」「そこが実家です」

ぽかーん。


あぁぁっ。もう。めんどくさいな!この質問は!
いっそ一人暮らしで、実家は千葉で、チワワのくーちゃんと一緒に住んでいることにしようか。どうせ本当のこと言う必要なんて、全然無いんだから。でも犬飼ったことないからすぐボロが出るだろうなぁ。

ちょっとイライラしていたんだろうか、「ふ、ふくざつなんですね・・・」といわれたのでやんわりとキレてみた。
「実家で兄弟と同居で、両親と一緒じゃないからってだけで、何かえらく不幸な事情がある家だ、みたいなリアクションって、ちょっと失礼じゃないんですかね。手狭になったから両親はちょっと郊外の2LDKに二人で住んでいるんですよ。我々は都心から離れたくなかったってだけなんですよ。」
後半はまるっきりウソだ。相手が「悪いこと聞いちゃったなぁモード」になっているのをいいことにイライラをぶつけているだけだ。
しかしこの人は常駐先の社員で同い年(院なので2年後輩)だけど、所帯持ちのような年齢になってさえまだこの程度の状況を「複雑な家庭」にしてしまう人もざらだ。



中学校2年のある新学期、転校生が入ってきた。少し大人びた雰囲気の子だった。雰囲気で「転校生サーファーらしいよ」とか言われていたが(中学生で何がサーファーか)、実際のところ彼女はアトピーを理由にプールも入らなかった。
苗字が「さ行」の彼女は私の前に座った。その日「今学期の目標」の作文を書くホームルームの時間に、彼女は振り向いて「ねぇ、『きんしんそうかん』ってどう書くの」
「なんで聞くの」
「知ってそうだから」

・・・なんで私に聞くのかを聞いているんじゃないんだけど。

同じグループでもなく、特に親しいわけでもなかったけれど彼女といるとなんだか楽な感じがした。時々海外ミステリを貸し合って読んだ。
「今のママはねぇ、フィリピーナなの。パパはほんとのパパだよ。で、弟がいるよ。すっごく可愛いの。おべんとうにのりとか切って飾るとすごくよろこぶよ。今日もあとで保育園迎えに行ってみる。」
それは乗り越えたあとの力なのか、それとも受け流した力なのか。彼女といて楽な理由が分かった気がした。