豊田市美術館

nalo9152006-02-25

出張中の休日を利用して、豊田市美術館を訪れる。

昨年の展覧会「谷口吉生の美術館」で、建物自身に関心があり、加えてエゴン・シーレの油彩を収蔵している、ということで期待がどんどん高まる。天気は上々の、建築鑑賞日和。

豊田市駅近くのホテルから歩いて15分。レンタカー屋、パチンコ屋、カラオケ屋、建売住宅の洗濯物が翻り・・・あぁ、こんなところに、アプローチの美しさで特徴的な、谷口吉生の美術館があったりするんだろうか。

高台を登りようやく目障りなものは減ってほっとする。青磁色のファザード、正方形のすりガラスの内装は、端整でいて重さがなく、さわやかな印象。展覧会で見た、電光掲示板を使ったインスタレーションが目に飛び込んでくる。
しばらく現代芸術の展示がつづき、「どこかで必ず、外を見せる演出があるはずだ」と期待しながら進むと、さもありなん、2Fから丘を見下ろす、ガラス張りの廊下があった。残念ながら風景はあまり美しくはない。ただ、ここはメインの視点ではない、ということで。

ここの醍醐味はなんといっても、水を張った中庭を望むテラスと、中庭から望む建物そのもの。彼の作品のほとんどで使われている、さざなみのゆらめく水面に建物を浮かばせるように見せる手法の美しさはしみいるよう。美術品を見ながら、きょろきょろ建物を見る、んじゃなくて、きちんと視点と意識を変えて鑑賞できるようになっているところが成程良いと思った。(たとえば西洋美術館ではその「切り替え」がないと思う)

展示に関していえば、いわゆる常設展なのだけれど、「どのような方針をもって収蔵品を集めているのか」ということをはっきり見せる展示をしていて、収集の方向性をしめすことで観覧者とコミュニケートしようとしている意識が見られた。ただ、現代美術が半分を占めることもあり、今一歩の働きかけがほしかった。と思う。この美術館に限ったことではないけれど、こと現代美術に関しては、「買いっぱなし、置きっぱなし」はもったいない、と思う。定期的なワークショップや、音声ガイドなども一部取り入れているようなので、模索中ではあるようだけれど。

楽しみにしていたシーレの作品の前ではしばし固まった。肌の塗りこみ、特徴的な「手」の表現など、じっくり見ることができた。水彩は森美術館の企画展で一度見たけれど油彩は初めて。クリムト、ココシュカと並べてあったので、違いが意識できてよかった。其の絵の前の空間を、しばらく誰にも譲り渡したくないような気持ちで、離れがたく思った。

出張中に休みになっても、一日だと帰りにくい。(名古屋ならいいけど、豊田は遠いんだよ)300円で収蔵品を満喫できて、美術書が読めて、350円でお茶して。シーレを見て。いいな。当分断続的に出張が続きそうなので、リフレッシュにまた通おう。

※写真はイチハラヒロコによるインスタレーション「恋みくじ」の結果