ガルシア・マルケス「わが悲しき娼婦たちの思い出」2004

「満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた。」
こんなどぎつい一文で始まる小説が、こんなに爽やかな喜びを与えてくれるなんて全然思いもしなかった。


(帯より抜粋)満九十歳を迎える記念すべき一夜を、処女と淫らに過ごしたい! これまでの幾年月を、表向きは平凡な独り者で通してきたその男、実は往年、夜の巷の猛者として鳴らした、もう一つの顔を持っていた。かくて昔なじみの娼家の女主人が取り持った、十四歳の少女との成り行きは……。悲しくも心温まる、波乱の恋の物語。二〇〇四年発表。


老人(男)を主人公にした色情ものというと卑猥で陰惨で醜悪な印象があり、普段だったら、「老いらくの恋なんて気持ち悪い、しかも少女相手?早く死ねよせめて枯れろよ狒々爺ィっ」と思ってそもそも読まないんだけどもなぜか一気に読んでしまった。おかしい。妙にカラっとしているのだ。川端康成の「眠れる美女」から着想を得ている、にもかかわらず。
物語は、90歳直前から91歳の誕生日を迎えるまで、のほぼ1年間の、主人公の恋が淡々と描かれる。これが実に純愛で、そのため笑え、温かい気持ちになる。
新聞にコラムを書くのを生業としている彼が、記事として書いた彼女への「ラブレター」が読者に大反響を起こしてしまうくだり、誕生日プレゼントにもらった猫に振り回されるくだり、「眠っている彼女と完璧にコミュニケーションできる」と思いこむなどの妄想、どことなくこっけいなエピソードが続く。普段「老人賛歌なんてクソだ」と思っているのに、どうして最後にこんなに鮮やかで爽やかな気持ちになるんだろう。「エレンディラ」もすごくよかったけれどこの不思議な感動は何だろう。もしかしてこの作家すごく好きになるかもしれない。すこしづつ集めていつか「百年の孤独」も読もう。それとやっぱり、誕生日は特別な日だ。