不死身の男

母と二人で千葉市まで行った。201号室の彼はベッドに体を起こしていた。機嫌が良いときの彼だった。「悪ィな、また生き残ッちまったよ。俺ァ不死身かと思うな」いつものセリフだ。連絡がいったこと、出張を中断させたことを詫びていた。点滴をしているのと顔色が白いの以外には悪そうには見えなかった。請われてチョコレートとコーヒーを売店に買いに行った。安物だが喜んでいた。この3日とにかくそれが欲しかったらしい。もっと美味しそうなものを買っていけばよかった。
医師が説明を始めた。病名は十年前と同じく心筋梗塞。彼は「65歳の人の病気ですよ…まだ10年も早い」といった。
修羅場はなぜか私と母の間で起きた。手術済のところの他にもう一箇所危険な箇所があり、そこを手術してしまうことを勧められる。体内に異物を入れて行う治療に母は「病院に生かされるようになってしまう」と反対する。「もう一発来たらおしまいなのに代替案もなく反対するのはおかしい」私は手術に賛成する。自分の死を仮定に延々続くべそっかき同士の口論を彼は黙って聞いていた。
「あのなァ、もう、担ぎ込まれたときに一個はいッちまってんだよ。もう始まってんだよ。だから、やっちまうことにするから」それで話は終わりになった。来週手術し、多分日曜には退院する。なんだか普通の家族のようだった。