ジャン=フィリップ・トゥーサン講演会

「映画そして/あるいは小説――『逃げる』をめぐって」Le cinéma et/ou le roman : autour de Fuir
@東京大学文学部(本郷キャンパス

  • 主催 「文学・芸術の社会的統合機能の研究(LAC)」
  • 共催 東京大学文学部仏文研究室

トゥーサンによる、彼の小説と映画活動についての講演会。2年ぶりかな。翻訳はもちろん野崎歓先生。

短編映画「逃げる」について

  • ルイ・ヴィトン主催の展覧会のために製作された短編。5人の監督がそれぞれ「Travelling」をテーマに作成したもの。
  • 小説「逃げる」の前半、北京編のバイクでの逃走シーンのみを切り出したような展開。ただし随所異なる。ストーリー展開も異なる。
    • ボウリング場からの逃走ではなく、おしゃれなレストランのようなところからの逃走
    • 麻薬がらみであることは特に示されない
    • 小説では全くわからなかった「追う側の人間」が映される・・・「公安」って書いてある・・・。
    • 高速道路に乗らず、バイクはわりとゆっくり走っている
    • 途中から船での逃走になる(そもそも北京じゃなくて上海の雰囲気)
    • 無事に逃げおおせて夜景をみながらいちゃいちゃ。・・・え?・・・それでいいのかな・・・?なんつーか・・・フランス映画ってこういうものか?
  • 「われわれは夜の実質そのものの中、その物質、その色彩のただ中を進んでいった」という文章のイメージを多面的に構成しているように見えた。(街の照明、カメラの照明を意識)

トゥーサンの映画への取り組みについて

  • そもそも映画監督になりたかった。そのために小説家になった。トリュフォーが「映画監督になりたければものを書け」というようなことを言っていたのではじめた
  • 映画への取り組み前期・・・フィルムカメラによるクラシックな手法、数年規模の大規模なプロジェクト体制での取り組み(高予算、専業化されたスタッフ、長期間の撮影と編集)・・・「アイスリンク」まで
  • 映画への取り組み後期・・・デジタルビデオカメラによる実験的な手法、数ヶ月・・・数週間での小規模な体制での取り組み・・・至現在
  • 「アイスリンク」と「テレビジョン」の対比(映画を生み出す困難⇔書くことの困難)ここ面白かった
  • 現在の比重は映画よりは小説にある
  • 「愛し合う」「逃げる」に続く連作3作目を来年出版予定

質疑応答から

  • 「映画を見て小説にしたいと思うことがあるか?」「ない、自作のシナリオの小説化ならありうるかもしれないけれど。実際アイスリンクはそうだったが、だいぶ加筆している。普段、映画から影響を受けて執筆することは無い。」
  • 「映画を撮ったことが小説の表現方法に影響を与えているか?」「それは極力無いようにしている。小説のエクリチュールを大切にしているし、いまはそれを第一に考えている。ただし映画を撮った経験そのものや、映画を撮るために行った場所、会った人のことなどは経験として自分に蓄積されていくので、受動的な形でそれが小説に影響を与えるかもしれない。ただし積極的に反映させようということは無い。自作を映画化する場合でも、表現は別のものだと強く考えている」
    • このコメントが非常に印象的だった・・・。小説の表現をそのまま映像化するほうがわかりやすいし簡単なのではないか、むしろ文章で表現したものをいかに映像に写し取っていくかがポイントであり、文章の正確な映像化ができること自体が、作家がメガホンをとることのメリットだと思っていた・・・。同じ主題やストーリーを扱って、それを互いに依存しない複数の表現方法を選択的に利用して別の作品を作り上げることというのはどういうことなのか。